三人が並んで用を足していた。 勢いよく尿を飛ばすのは竹園と岡部で、四十になった仲本はいくぶん尿が細くなっている。一番若い、二十九の竹園は尿が太く、手洗いの前に立つのも早い。三十代半ばの岡部が続き、遅れて仲本となる。連れだって小便をする時はいつもこの順番だ。二十代、三十代、四十代、年齢順で男たちは小便を済ます。「こういうとこ入ったら、いつもどこで小便してる?」 岡部が言った。手洗いの鏡越しに、他の...
滝のように汗が流れていた。 空はどんよりと曇っていて温度はさほど高くないが、ジメジメと空気は湿り風はまるでない。風通しのいいとは言えない作業服で小一時間、一人きりで看板の取り付けをしている間に、小峯慎平は全身汗だくになっていた。顔に吹き出た汗を袖で拭うが、何度もこすっているから半袖はじっとりと濡れ、顔の脂も吸ってヌタヌタだ。 こんなことがしたくて帰ってきたんじゃない。 つらい仕事、面倒なことが重...
先日、発売開始したSM-Z春の号に僕の小説が掲載されています。以前にも「さわりのさわり」として冒頭部分を紹介したやつです。今回はもう少し紹介させてもらいます。続きは本誌で読んでもらえたらうれしく思います。 港に戻ると騒ぎになっていた。 男同士の怒鳴りあいの声が聞こえていた。どうやら出稼ぎの男の一人が、どこかの船頭とケンカになったらしい。船頭が何人かと手伝いの男たち、それに女房連中が男を取り巻いている。...
現在発売中のジーメン四月号(193号)に僕の小説がのっています。『団地住まい』挿絵はヒコさんです。以前のエントリーでさわりを紹介しているので、よかったらどうぞ。http://kodamaosamu.blog.2nt.com/blog-entry-78.html続きはジーメンで読んでいただけたら、たいへんうれしく思います。またこのブログの「カテゴリ」欄に「さわり」欄を作ったので、よかったらお使いください。...
記帳場所としてテントを張った後は花輪の設営だった。おれは黒ネクタイを肩に引っかけ、袖まくりして次々と力仕事を引き受けた。バイトとはいえ、よそよりずっと時給がいいからいつも張り切って動く。「今日のは焼けた死体だ」 社長に声をかけられた。もちろん喪服姿で、でんと突きだした腹をさすりながらタバコをくわえようとしている。「言い方が悪いスよ、社長」「まだ親族は来てないだろ。どうも、例の連続放火の被害者らし...