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『痴漢されたいわけじゃない!』
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別れ際には必ず僕たちは抱き合った。人目を忍んで、車の中で。
そうされるとなんだかせつなくなって、僕は鳴瀬さんの目を見据えてしまうのだった。すると鳴瀬さんにキスされる。僕だって、キスされればおかしな気持ちになってくる。男だから、やらしい気持ちにもなる。
こないだの続きがしてみたい。
はっきりそう意識することもあった。
あの先にはどんなことが待ってるんだろう……?
だけど僕の心を読んだように、鳴瀬さんの方から体をはなしてしまうのだった。
そんな時、鳴瀬さんは決まって、ちょっとおかしな顔つきになった。こわいような、きついような、男っぽい顔をするのだ。
最初は、なんでだろ?と不思議だった。なんでこのタイミングで怒るんだろう?と。
だけどデビュー戦の日程が近づいてくるにつれて、鳴瀬さんと僕の心の距離が近づくにつれて、わかってきた。
あれは怒ってるんじゃない。自分を戒めているんだ、と。
僕と抱き合って、キスをして、その気になりそうな自分を抑えている。
つまり、我慢してるからなのだ。
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プロのキックボクサーを目指す美里は天性の格闘センスにめぐまれているが、その性格は気弱で大人しい。見た目もかわいらしく満員電車の中で男たちに慰み者にされてしまう。
たまたま同じ電車にのっていた鳴瀬はそんな美里の乱れる姿を見てしまう。浮気性の従兄弟との恋を終えたばかりで人間不信に陥っていた鳴瀬は、美里を「淫乱な奴」と思い込む。
美里が勤めることになった工場は鳴瀬の一族の持ち物で、二人は工場で再会する。はじめは互いに反発する二人だが、美里の純真さに鳴瀬はやがて惹かれていき、美里も鳴瀬の男らしいやさしさに心許すようになる。だが、二人が結ばれようとした時……。
かぎりなくボーイズラブなゲイ小説。泣き虫のかわいい美里がいざとなるとけっこう積極的なところがBLらしくないかもしれません。
主役カップル二人以外にも、美里の親友でマッチョ格闘家の太郎、鳴瀬の従兄弟で元恋人の淫乱陽気なゴウも登場します。
未発表小説。
僕が書いた中では一番BLらしいお話かと思います。
でも、この間、某BL作家さんと話していたら、
BL小説の世界には独自ルールが数多く存在していて、
たとえば受けだった男がタチになったり、
受けの男がなにか積極的な心持ちになったりというのは
好まれないらしい、と判明。
だからダメだったんだなといろいろわかってきたような、
そうでもないような……。
このブログからリンクもはらせてもらっている
樋口めぐむさん(僕の数少ないお友達、と勝手に思っている)のブログに
ゲイ小説(ポルノではなく主に純文学分野の)の
新しさ、や、古さ、というものが数日前に書かれていて、
あー、なるほどと少しわかってきたような気がしています。
彼と会って話していたり、彼の書いていることを読んでいると、
新しいゲイ小説(どこかに新しさのあるゲイ小説)を書くのだ、
という野心が感じられる、というより、
はっきり表明されているのですが、
その「新しさ」というものが正直、僕にはピンときていなかった。
ご存知のとおり、僕は勉強するのが嫌いで、
本を読んだり取材したりをほとんどしない。
だから彼のような人にいろいろ聞くのが楽だな-、
なんて図々しく考えていて、
何度か会ったり彼のブログを読んで
だいたいこんな感じなのかな……、とわかった気でいたけれど、
それは錯覚であって、
数日前の記事でようやく腑に落ちたような。
おそらく樋口さんからしたら、
どうしてそんなことがわからないんだ?というレベルの話で、
僕も、我ながら驚いているんだけど、
そこで思ったのは、
どうも僕は世の中の流れ的なものはあまり考えずに
なんとなくお話を作って、書いてきたのだなということ。
やっぱりぼうっとしてるのかな……。
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