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SM-Z小説のさわり







先日、発売開始したSM-Z春の号に僕の小説が掲載されています。
以前にも「さわりのさわり」として冒頭部分を紹介したやつです。
今回はもう少し紹介させてもらいます。

続きは本誌で読んでもらえたらうれしく思います。




 港に戻ると騒ぎになっていた。
 男同士の怒鳴りあいの声が聞こえていた。どうやら出稼ぎの男の一人が、どこかの船頭とケンカになったらしい。船頭が何人かと手伝いの男たち、それに女房連中が男を取り巻いている。
「やめたやめた、お前んとこの船にはもう乗んねえよ」
「たのんでねえ、さっさと消えちまえ!」
 怒鳴り返しているのは畑山のとこの親父だった。でっかい船を二艘使ってがっぽり儲けている船頭だ。もともと手伝いの男がいるし、広太郎もいて、出稼ぎの男もまだ三人残ってる。実際、一人くらい手が減っても痛くも痒くもないんだろう。
「誰か俺を雇う奴いねえか!」
 町の人の輪の中にあって、その男は少しも臆せず言い放った。この町じゃ畑山ににらまれちゃいられるはずもない。みんな人手は欲しくても声はかけられないのだ。それに扱いにくい男を欲しがるバカもいない。
 そんな風に思っていると、その男がギロリとした目でオレを見た。
「お前んとこ、船に手伝いがいねえな? 決まりだな?」
 とっさに声も出なかった。実際、手伝いはいないし、人手は欲しい。町の人は疑うような目でオレを見た。畑山の親父はとくに怖い顔でにらんでくる。それでもオレの口から、いらないという言葉は出てこない。
「荷物とってくる」
 男は決めつけてニヤリと笑い、人の輪を出て行った。とたんに緊張の糸が切れて、みな、それぞれの用事をすませようと動き出す。畑山の親父はまだオレをにらんでいるが、そんなものは無視してやった。
「よせよ、あれ、使いにくいぞ」
 広太郎が駆け寄ってきた。
「使い物にならないってことか?」
「そうじゃない、どうも勝手は知ってるらしいけどさ。今朝はちがう船だったから直接見てねえんだけど」
「一人でやるよりマシさ。日当払ってもたっぷりお釣りがくる」
「でもな」
「お前が手伝えないんだからしょうがねえだろ」
 町の人間になら誰でもいい顔する奴なのだ。広太郎は困ったような顔をして離れていった。そこに、男が薄汚れたボストンバッグを担いで戻ってきた。
「腹減った。メシ食わせろ」
「そこまで面倒見切れない」
「宿がいっぱいなんだ。夕べも向こうの船頭んちに世話になった」
 出稼ぎの男たちが押しかけてくる時期だから宿がないらしい。いつの間にか、すぐそこにお袋が来ていた。
「あたしはいいよ」
 男は、とにかく腹の膨れるものたのむと言って、お袋と並んで歩き出した。
 道具の手入れをして家に戻ると、男は仏間に寝転がっていた。
「一人でいると凍えそうな部屋だぜ」
「ここしか空いてない」
「さびしい思いはしないですみそうだけどな」
 鴨居にのせられている先祖たちの写真を、男はぐるりと見渡してみせた。その中でとりわけ厳しい顔でこちらを見下ろしているのが親父だ。遠い記憶が戻ってきそうになって、オレはあわてて目をそらした。それを男がじっと見ていた。
「おめえ、名前は? 小菅なんていう?」
「清だよ。小菅清」
「俺は沼野譲二」
 手を差し出されて意外な気がした。トラブルメーカーの流れ者かと思っていたのに、案外親しいのかもしれない。だけど、手を握ると妙に熱くて気持ちが悪かった。その手でオレの手をなかなか離さず、ニヤリと笑ってみせた。






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小玉オサム

Author:小玉オサム
ゲイ雑誌各誌に小説を送りつけ続けて、22年。
白髪の目立つ43歳。鼻毛にも白いものを発見! 鼻くその話じゃないよ。

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