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海風は冷たく湿っていた。暦は春でもまだ当分気温は上がらない。空はどんよりとして、重々しい雲に覆われている。その下に広がる海はあいかわらず灰色で寒々しい。
手元がかじかんで息を吹きかける。かぎ針で網の手入れを続けてもう三時間。お袋と二人で黙々と手を動かしている。港の漁師小屋の前で、コンクリートに尻餅ついているからケツも冷え切っている。お袋はさすがに座布団を使っているが、手はあかぎれで真っ赤だ。二人とも、まるでしゃべらなかった。もうずっとこうだ。二人でいて、用件もなしにしゃべることはまるでない。親父が死んでからはずっと。
港の一本向こうの道にバスの走ってくるのが見えた。一日に三本しかないバスの、夕方の便だ。いつもは病院帰りの老人しか乗っていないバスから、壮年の男たちが十人以上も降りてくる。一人、まだ比較的若そうな男が立ち止まってこっちを見ていた。比較的、といっても、オレより十は年上の、三十代だろう。その男たちを出迎えるように、船頭たちが取り巻いている。どの船で雇うか話しているのだ。
たぶん、三月発売のSM-Z春の号に掲載されるはずです。
冒頭部分になります、というか、その予定。
まだ編集様からOKが出たわけじゃないので、大幅に変更される可能性もあります。
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