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『鏡』
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二人ともすっかり寝入ってから玄関のベルが鳴った。僕は寝ぼけながらベッドの上で起きあがった。時計を見ると、もう二時を過ぎていた。
「誰だよもう……」
そう言いながらも僕は無視してまた眠ってしまおうと思った。だけど、横になろうとしたとたん、またベルが鳴った。僕は隣の裕也を見た。これだけベルが鳴っているのに、ちっとも目を覚まそうとしない。こんなに眠りの深い人だったのか、とちょっと新鮮な発見だった。またベルが鳴った。
「まったくもう……」
しょうがないから起き出して玄関に行った。覗き窓から外を見ると、見知らぬ男の人が真横を向いて立っていた。年は僕と同じくらいだ。なんだか気味が悪かった。
「どなたですか? いま夜中ですよ?」
僕はインターホンのボタンを押してマイクに話しかけた。だけど、なんにも答えてこなかった。もう一度、覗き窓から外を見た。誰もいない。なんだか寒気がした。いたずらにしても、いやな感じだ。そういえば前にもこんなことがあったような……。僕はロックを確かめてからベッドに戻った。
「あ……」
ベッドのそばに立つと、裕也がパッと目を見開いて僕を見上げてきた。
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立地がよく間取りもおしゃれなデザイナーズマンション。そのうえ友人のつてで破格の賃料というまさに「理想の部屋」を手に入れた若い主人公。引っ越しをきっかけに勤め先の場所もかわり、そこで新しい出会いまであった。なにもかも最高と思っていたのに、その部屋にいると次々と奇妙なことが起こる……。
初出『バディ』。小玉オサム唯一のホラーゲイ小説。「ドラマチック小玉劇場」第三作。続き物ではありません。読み切り短編。
『スリ』
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「あ、」
ちらりと彼が目を向けてきた。忠隆はあわてて視線をそらした。ダンボールから商品を出し、値札シールを貼り付ける。再び彼の方を伺い見ると、また別の菓子の箱を手にとって眺めていた。それは自然な仕草だったが、もう片方の手はすばやい動きでポケットに別の商品を押し込んでいた。
今、万引きしたのか?
忠隆は心の中で確かめた。心臓がドクドクと脈打ち始めていた。するとそれが伝わったかのように、彼も忠隆の方を見た。だが、それは万引きを目撃された人間の態度ではなかった。逆に、何かを見通したような目つきだった。見間違いだろうか?と忠隆も思い直した。だが、たしかに見たのだ。彼は手に持っていた箱を棚に戻し、歩き出した。
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顔立ちは幼くかわいらしいが万引き癖のある二十歳の青年。高校を出て以来真面目に働き続けている二十六歳の兄貴と出会い、更生して生きようとするが、生まれついての誘惑に心がざわめく……。
初出『バディ』。「ドラマチック小玉劇場」第四作。続き物ではありません。読み切り短編。
小説のタイトルって大事ですよね。
タイトルしだいで電子書籍の売り上げってまるでちがう。
いかにもエロエロで期待させるようなタイトルだと出がちがいます。
それとくらべて今回の『スリ』とか『鏡』はいまのところ出が悪い。
もちろん、これにもエロエロなタイトルをつけちゃえば違うんでしょうけど、
タイトルに惹かれて買ってくれた人のがっかり度があがるでしょうし、
がっかりしちゃった人はほかの作品を買ってくれなくなるでしょうし……。
それに、当たり前だけど内容にあったタイトルつけたいし。
と言いつつ、『スリ』の方はもともと違うタイトルでした。
はじめは『少年』というタイトルで編集部さまに渡したんですが、
もうおわかりでしょうが
未成年という意味の少年ととられるとお上ににらまれやすい、
ということで変更。
で、実際に掲載された時のタイトルがもうわからなくて、
今回、あらたに『スリ』というタイトルをつけました。
昔観た映画のタイトルのぱくり。
ぜんぜん共通点ないけど。
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