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『同棲』
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僕としゅういちの同棲生活がはじまったのは一年くらい前のことだ。
当時、僕たちはそろって同じ大学の三年に上がったところだった。でも、学部が違っていたから、付き合うようになるまではお互いの存在をまったく知らなかった。きっかけは、とあるインターネットの掲示板で、僕が同じ大学で友達を募集したことで、唯一連絡をとってきたのがしゅういちだった。会ったその日にセックスをして、次の週には、二人で暮らせるアパートを探そうと引っ張り回されていた。
それまで、僕はまともに誰かと付き合ったことがなくて、しゅういちともせいぜいセックスフレンドどまりだろうと思っていた。なのに、気がつけばもう一年も一緒に生活している。ほんと、こういうことって運しだいで、進む時はトントンと進んでしまう。だけど、それは反面、先のことはなんにもわからないってことだ。大学生の間はともかく、卒業した後は二人の生き方も違ってくる。住む世界も変わってくる。いつまで今のような関係が続けられるのか……。
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大学生のカップル、しゅういちと「僕」。二人でいると楽しいし今はなにもかもうまくいっているように思える。しかし弁護士になるという進路の決まっている「僕」とちがい、しゅういちは毎日就職活動しながらひとつも内定がもらえていない。
卒業後の二人の関係がまるで見えない不安を感じながら、慎ましくも性欲旺盛な生活を送っている若い二人の日常を描いた短編。
初出『バディ』。ゲイカップルの一日シリーズ第九弾。シリーズといってもそれぞれが読み切りの短編です。バラバラに読んでも問題ありません。
『隣のカップル』
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林檎を囓りながら、かみさんのパート先での愚痴話を聞いてやった。聞きながら、となりのことも気になってチラチラと目をやった。こう見比べると、べつにおれら夫婦とそうかわんないのかもしれない。カップルってものには男も女もないのかも。
それにしても、こんなに身近にいるもんなんだなあ、とは思う。こんなすぐにとなりに、ごく普通に存在してるなんてな……。
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脚を怪我して入院しているノンケ男が主人公。新しくとなりのベッドに入ってきたのは目を見張るような美少年で、付き添いは黒服のごつい男。義理の兄弟かと思うが、カーテンごしに聞こえてくる二人の会話はどこかちくはぐ。黒服の兄貴は刑事だというが、病人の美少年の方がよほどしっかりしているようで……。
初出『バディ』。狭い病室で、ゲイの美少年とたまたまとなりあわせになったノンケ男の戸惑いを描いたお話。ユーモア覗き小説。ゲイカップルの一日シリーズ第十弾。シリーズといってもそれぞれが読み切りの短編です。バラバラに読んでも問題ありません。
先週、姉がうちにきたので
「まだ返してもらってないんでしょ?」
と切り出したら、やはりそのままの状態が続いてるとのこと。
「会社のお金をたてかえた、という言い訳もきっと嘘だろうね」
と僕がつっつくと、姉も、
「たぶんね」
と認めました。
「ほんとにせこい男だね。いかにも気前がいいようなこと言っておいて、彼にとっちゃはした金のはずの20万ばかりの金を騙し取ろうってんだから。もう次の女を探してて、そっちに切り替える前に少しでも取り戻そうってことなんじゃないの?」
「そんなことないよ」
「彼はそんな人じゃない、って? まだそんなこと言ってんの?」
僕がたたみかけても、姉は渋い顔でまともに反論もしてこない。
「週に何回も飲み歩いて、しょっちゅうタクシー使う人なんでしょ? 少し節約すれば20万なんてすぐに用意できるはずじゃん」
「それはそうだけど」
「そんな奴にまだ肩入れしてるなんて、ほんとどうかしてる」
実際には、喧嘩腰で話し合っていたわけじゃないんです。
あまり深刻な雰囲気にするのはかわいそうだから、
軽い調子で攻めていった。
しかし本当は、腹が立ってしかたがない。
だってこの姉にはもう十年以上、
百万円以上のお金を僕は個人的に貸しているのです。
その借金を姉はまともに返そうとしてこなかった。
こっちからしょっちゅう、
「今月は返してくれるの?」「ねえ、返してよ?」
と催促を繰り返して、ようやく、一万、二万の額を、
いかにも渋々といった風に渡してくる。
この一年はとくにひどくて、
去年の今頃に二万円だかを返してくれた後、
約一年間、一円も返してくれなかった。
「言われないかぎりできるだけトボけていよう」
という態度がまず腹立たしいし、
こうなってくると、
姉がなにかしらにお金を使っている姿を見るだけで腹が立つ。
化粧品、煙草、洋服、鞄、飲み会、旅行。
決して贅沢なお金の使い方をしているわけではないのはわかっているけれど、
「そんなものに使う金があったら先に返せ」
と考えてしまう。
毎月、これだけは必ず、という風に約束して返してくれているのなら
彼女も働いていて、子供もいて大変なのだから、
文句はないけれど、
弟に借りたお金だから後回しでいいだろう、
という甘えた考えがゆるせない。
僕がすごく稼いでいるのならともかく、
学生のバイト以下の収入しかない状況で
ものすごくケチケチとした暮らしをしているのに、
どうしてこの姉にお金を貸したままになっているのか。
そんな姉が不倫相手に金を貸したわけですよ。
自分が借金まみれで迷惑かけどおしのくせして、
なんでひとに金を貸せるのか意味がわからない。
しかもその金をうちから持っていくなんて言語道断……。
と、考え出すと頭にくるわけですが、
やっぱり血を分けた姉なので、
あんまりきつい言い方はできないんですよね……。
もう十年近く前ですが、
姉は旦那に浮気されて、
それから旦那を信用できなくなった。
子供たちの教育のことをまず第一に考えて、
自分のためにお金を使うようなことはほんとしてこなかった。
僕や、父や母にいつも頭を下げて生きてきた。
それが、最近、仕事で人をまとめる立場にまでなって、
子供も手が離れてきて、
旦那は単身赴任がずっと続いていて、
「私も少しは好きなことしていいんじゃないかな」
なんて考え出したとしても、
無理はないのかな、とも思えてきて。
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