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『家族の写真』
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「待たせたな」
啓ちゃんがお盆を抱えて戻ってきた。お茶とお菓子が山盛りになっていて、それをアンティークのちゃぶ台の上に、きれいにセッティングしていく。前に啓ちゃんが自分で選んで買ったガラスの湯飲みには、木目の浮き出たコースターが敷かれている。お菓子はそろいの小皿に並べられて、パッと見、オシャレなカフェのようだ。ジーンズにトレーナーの家着姿の啓ちゃんは、ほんと体がでっかくて、この狭い部屋を一人でむさくるしくさせる迫力があるというのに、することは繊細なのだ。見た目はすごく男っぽいし、普段無口で性格も男らしい方なのに、気配りはこまやかで、どちらかというと僕の面倒を見てくれている。
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恋人の啓ちゃんは体が大きくごついが気配りのできるやさしい男。その家族は啓ちゃんがゲイと知っていて、主人公の僕も家族ぐるみでおつきあいさせてもらっている。しかし僕の家族は僕がゲイだなんて想像もしていない……。
初出『バディ』。「写真」シリーズ六作目の最終話。シリーズといっても続き物ではありません。読み切り短編。やさしい雰囲気のお話。
『タンブン』
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畠尾が住むようになって、吉高のこの部屋は様変わりした。片付いただけではなく、少しずつ模様替えされていき、以前とは比べようがない、居心地のいい雰囲気に変わっていた。
ただ白い壁にかこわれただけの、いかにもマンションらしい部屋だったのが、壁は土で塗られ、木を貼り付けられ、テーブルや本棚などの家具まで畠尾は手作りした。それがどれもシンプルでありながら見栄えがするもので、全体としては、海外のインテリア雑誌に紹介されていそうなオシャレな部屋に生まれ変わったのだった。かといって、決してやりすぎという感じにはならないさじ加減が素晴らしいと密かに吉高は思っていた。
雄介はセンスがあるね。
そう口に出して言ったことも何度もある。畠尾はニヤリと笑って聞き流した。
ゲイでインテリアが好きだという男は、どういう方向性にせよ、やりすぎてしまうことがある。とくにお金を持っていると。しかし雄介はバランスをとっていると吉高は思う。実際、畠尾はバランスという言葉が好きでよく使っていた。
畠尾の特技はそれだけではなかった。料理の腕もあるのだ。和洋中、どんなものを作らせても味付けがちょうどいい。畠尾と付き合うようになって以来、吉高は外食をほとんどしなくなった。付き合いでしょうがないという時以外、必ずここに帰ってきて、畠尾の作ったものを食べる。
インテリアに凝っていて、料理がうまい。しかし畠尾の見た目はまるで普通の男だ。オネエの要素は見あたらない。ノンケ男みたいだと吉高はいつも思う。ゲイらしいところが仕草や言葉遣いからは感じ取れないし、まったくオシャレでもない。イカツイというほどではないが、野暮ったくて、どこにでもいそうな男。それゆえに、ゲイにはモテる。
つまり、僕らの生活は限りなく完璧に近い。
吉高は常々そう思う。日本に住むゲイのカップルとしては、いろいろなことが整っているのだ。収入もライフスタイルも相性も申し分ない。たまに二人で街中に出た時など、ショーウインドーのガラスに映った自分たちの姿を見て、なかなか見栄えがすると吉高は満足した気分を味わう。
なのに現実離れしているように思える。
これでいいんだという実感を得たことがない。
畠尾はパートナーとして色々都合がいいけれど、働かない男というものに吉高は違和感を覚えている。ましてアル中かもしれないと考えると。
いや、雄介の問題じゃない。
そのくらいわかっているのだ。おそらくほとんどすべて自分のとらえ方だと吉高にもわかっている。ショーウインドーに映る自分たちの姿を見た時のように、満足すべきなのだろう。これがリアルだと思いこめばいい。
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都会の高層マンションで同棲するゲイのカップル、吉高と畠尾。出会った時から相性がよく長く続いている二人だが、吉高は既婚の中年男峰岸とも関係があり、畠尾も二十歳の学生とつきあい始める……。悲しい過去にとらわれている吉高、成り行きまかせでテレビに出る畠尾、仕事も家庭も遊びもすべて自分のものにすると決めている峰岸。三人のゲイの男たちの日常を淡々と描く長編小説。
未発表小説。ポルノではありません。ご注意ください。
予告どおり、現在、『タンブン』が無料キャンペーン中であります。
たぶん明後日の夕方まで続くはず。
ちょっとはっきりしないので、気になるという方はいまのうちにダウンロードしてくださいませ。
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